
「国際地球観測年」を機に、南極探査の初期からその中心メンバーとして観測 を続ける日本。
オゾンホールを発見したことが国際的なフロン規制に至るなど、 南極観測隊が積み重ねて
きた研究の成果は、地球規模の研究に活用されている。

すべてが凍りつき、猛烈なブリザードが吹き荒れる地球の極地。氷に覆われた巨大な大陸には、地球規模の環境変化や宇宙を知る情報が凝縮されて表われる。南極は宇宙開発と同様に、国際協力によって研究が続けられる壮大な科学的調査のフィールドなのだ。
その南極に日本の昭和基地が開設されたのは、半世紀以上も前のこと。「国際地球観測年」(1957〜58年)の一環として行われた南極観測は、未知の大陸を探る世界的な共同研究事業。当時はまだ戦後の疲弊にあえいでいた日本にとって、
初代南極観測船「宗谷」。もとは耐氷型貨物船で、軍の特務艦にも使われた船だった。改造を担当したのは戦 艦大和を設計した技師たちだ。
未知の世界に立ち向かう南極観測隊のために、発電機や通信機器、保存食など、あらゆる事項で基地開設の入念な準備が行なわれた。すべてが手探りの状態だったが、研究機関はもとより国内メーカーや技術者たちの熱意で、様々な工夫と技術が生まれていった。特に難題だったのは、建物の設計だ。極寒の地で家となる生活の器がなければ、長期的な観測活動の継続は不可能。失敗は越冬隊員の命にかかわる事態になる。この問題に取り組んだのは、日本建築学会が設立した南極建築委員会だ。
1968年に建設された「第10居住棟」の木質パネル断面。第1次隊のシステムに変更を加え、パネル製造に工業化技術を取り入れた。30年後に南極から持ち帰り、経年劣化や強度を調査。性能の 高さが確認された。
2002年2月撮影の昭和基地。この地域は夏季になると雪が消え岩盤が現われる。管理棟を中心に居住棟などが通路棟(黄色い建物)でつながる居住区があり、気象・地学・電離層などの研究・観測棟が扇状に広がっている。
南極観測隊を実質的に派遣している国立極地 研究所を中心に、基地の再整備計画が立案され、1991〜92年にかけて「管理棟」を建設。日本大学グループが基本設計を行ない、製造は住宅メーカーのミサワホームが担当した。写真は夏季の南極での建設作業風景。昭和基地のシンボルとなる3階建ての複合施設だ。

日本の南極観測事業の主要基地であり、越冬隊員にとっては1年間生活する住まいとなる昭和基地。その住環境は驚くほど快適になっている。下の写真は、実際に建設を受注しているミサワホームが製作した居住棟個室の実物大模型。その内部を観ると、第1次隊の南極建築から発展した木質パネルの基本性能が、隊員たちの暮らしを守る器となっているのがわかる。主要な施設には床暖房が導入され、マイナス40℃になる冬でも室温は15〜20℃。男女別の浴室や水洗トイレもあり、管理棟にはレストラン並みの厨房施設も備えている。
しかし、一歩外に出れば極地環境なのは変わらない。その中で観測活動を支える基地の設備や生活を維持するのは、もちろん簡単なことではない。南極観測隊員として任務に就くのは科学者や研究者だけでなく、民間の医師や調理師、車両・機械・建築にはメーカー技術者といった各分野のプロたちが、昭和基地で活躍している。
現在の居住棟も第1次隊と基本は同じ構造で木質パネル工法。熱損失を最小限にする工夫は現代のエコ住宅にも通じる。写真はミサワホームの「ミサワパーク東京」に展示されている、第2居住棟の実物大カットモデルを撮影した。
第2居住棟の壁パネルの芯材はヒノキ。断熱材には厚さ108mmのスタイロフォームを使用。木質パネルの外壁部は何とチタン張り。ちなみに管理棟はガルバリウム鋼板仕上げだ。
南極で使われる設備や装備は、堅牢でいて確実に機能すること。さらに南極の自然に負荷をかけない環境性が重要だ。新開発品や既存技術の製品も、国立極地研究所による選定やテストを経て南極に送られ、極地環境で実力が検証される。さながらF1マシンのように、極限への挑戦と創意工夫が新たな技術発展を育む場といえるのだ。

自然エネルギーの利用が進む。太陽光発電パネルは低温と激しいブリザードに耐えうる製品を選定。風力発電機は縦軸型の南極仕様を開発中。

交互に稼働する2台のディーゼル発電機が基地の心臓部。エンジンのメンテナンスは重要で、ヤンマーから出向した発電機担当隊員が参加する。

2004年建設のインテルサット衛星通信装置により、高速インターネットが可能になった。東京の極地研とは内線電話番号でつながっている。

南極では生野菜が不足するため、2008年に野菜の自動制御栽培装置が設置された。空気中の二酸化炭素を濃縮して成長を早める南極仕様だ。

第1次隊から発電機の冷却水と熱を利用するコージェネを実用化。現在は循環式風呂とシャワーが24時間使え、高度な汚水処理施設もある。

食事は隊員たちの活力。調理隊員が限られた食材で工夫しながら腕をふるう。保存食材の技術も南極には欠かせない。写真提供/朝日新聞社
昨年就航した新しい「しらせ」は、砕氷能力がパワーアップし、輸送力が増大。物資のコンテナ輸送も可能になり、今後の南極観測に新たな展開が期待される。