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今年のお花見は花粉症のために行けなかった。
まったく行かなかったのかといえば嘘になる。
編集部で夜桜を見に行ったからだ。
しかし、それも夜だからなんとかなったわけで、昼間にはとても出かけられる状態ではなかった。
夫婦ともども同じ症状なので、休みになっても出かける気にさえならず、ずっと家にいた。
そんなとき、義母から電話がかかってきた。
少し前から中国から来日していたのである。
「ワタシハ、イマ、オハナミニ、キテイマス。イマカラ、アナタタチモキマセンカ?」
「いやぁ〜、申し訳ないです。二人とも花粉症で、とてもじゃないけど、出る気分じゃないんです。ちなみに、どこでお花見してるんですか?」
「ヤスクニジンジャデス」
「……(ガ――――ン)」
その頃、中国では激しい反日デモが各地で起こっていた。
私の妻は中国人だが、それとはまったく無関係に、あまりに非道な行動に、腹を立てていたところであった。
しかし……。
「今、靖国神社って言いましたよね?」
「サクラ、トッテモキレイデス」
「そんなことは知ってますよ!よ〜く聞いてくださいよ。これ、ケータイからですよね?」
「ハイ、マワリモ、ヒトデ イッパイデス。オサケデ ミンナ ヨッテマスネ」
「それです、それ。それがまずいんです。そこで中国語でペラペラしゃべってるというのが、と〜ってもまずいんです」
「オハナミガ マズインデスカ?」
「いや、お花見はいいんですが、場所を変えたほうがいいんです。いろんな意味で」
「?」
「靖国参拝の問題とか、いろいろとあるのは、お義母さんも知ってるでしょう?」
「ハナヲ ミルノニ サンパイ シタホウガイインデスカ?」
「いや、しなくていいんです。いや、しないでください!いや、してもいいとかいけないとかじゃなくて、そんなことじゃないんですよ!………とにかく、お花見は別の場所で……」
「ココハ トテモ キレイニ サイテマス」
「そんなことは、わかってます! でも、北の丸公園もキレイなんですよ!!」
「バショ ワカリマセン。チカクノ ヒトニ キイテミマス」
「聞かなくていいです!話しかけなくていいんです!とにかく黙って駅に戻ってください!」
「ヒトガ オオクテ……」
「わかりました!じゃ、今から迎えに行きますから、黙って桜を見て待っててください!」
「ココハ キレイダカラ……」
「キレイなのは、もう充分にわかってるんです!でも、他にもキレイなところが、たくさんあるんです!今から僕が連れて行きます!待っててください!」
あふれる鼻水を拭きながら、そして流れる涙で見えにくいフロントガラスを凝視しながら、私は九段下へとクルマを走らせた。
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